LOGIN血だらけの悪魔に対してカイルは1つも攻撃を喰らっていないため、無傷だった。
そして、悪魔はあることを思い出した。 「お…思い出したぞ!お前は、イフリークの守護神だな?」 「……」 カイルは返事を返すことなく、コクっと頷いた。 「まさか、神級魔導師が相手とは。だが、このPDO(プロジェクト・デビル・オペレーター)の俺が負けるなどありえない!」 そしてPDOは地面に手を置くと周りに地割れが起こった。 カイルとミーナはあまりの揺れに体制を崩しそうになった。 「お前の魔法は影だ!その影を無くしてやればお前は何もでき…」 すると悪魔の背後から別の影が発生した。 そしてその影から一本の細長い棘がPDOの体を貫いた。 「グハァッ!こっ、これは初級魔法だと?」 地割れがやむとカイルは再び領域を作った。 今度の領域は直径30m程あり、離れていたPDOもその圏内に入ってしまった。 カイルは2つの長剣をクロスに振るとPDOの体はクロス状に切り傷が入った。 「俺はあいにく、影の魔法は全て扱えるんでね。お前のその子供が使いそうな地属性魔法は何の妨げにもならねーんだよ。」 「くっ…そぉ…ふざけやがって!」 悪魔は紫色の塊を目の前に発生させた。 しかも、今度は今まで出してきた中でも最大級の大きさで直径50mほどあった。 「仕方がねえ、先にこの町を破壊してやる。そしたら俺も死ぬがお前らは確実に死ぬぜ!」 そしてPDOはその巨大な紫色の塊を手で押すと遥か上空に打ち上げた。 上空で直径100kmくらいまで広がるとそのまま地上に落ちてきた。 「まずいぞ!あれをこの国が受けたら本当に全員死んでしまうぞ!」 騎士達や町の人々は上空にある塊を見て混乱していた。 しかし、カイルだけは落ち着いていた。 そして呪文を唱え始めた。 「表裏に通づる闇の門よ、神に赴け!」 するとカイルの影の領域が更に黒さと範囲を増し、そこから巨大な影の手が発生した。 その影の手は紫色の塊を掴むと一緒に影の世界へ引きずり込んだ。 影によって魔力の塊は消えてしまい、騎士達は驚いていた。 「すごい…あのでっかい魔力の塊を消してしまった!」 「あぁ、あの人のあの魔法はいったいどうなってるんだ?知ってるか?」 1人の騎士が質問すると隣にいた騎士が説明した。 「俺が聞いた話だと、俺たちが使う魔法は普通魔力を消費して魔法を発動するというのは基本だ。だが、団長の魔力は消費する事はなく、今みたいに膨大な魔力を使っても息一つ切らさない。」 「えっ!?消費せずに魔法使えるのか!?」 「それが影の神級魔法の特徴らしい。あの影があるが故に団長は歴代最強の騎士団団長と謳われているんだ。そこらの悪魔や悪魔祓いじゃまず団長を倒す事は無理だろう。」 その騎士が言う通り、カイルの身体は無傷で疲れている様子はなかった。 一方PDOはさっきの魔力を放ったせいもあり、既に瀕死状態だった。 「どうした。もう終わりか?」 「ぐっ…ここまで力の差があったのか…」 PDOは膝を着き、悔しさで地面を叩いてた。 「そろそろケリをつけてやる。ミーナさん、俺の部下達の方に行きなさい。」 「え、出ても大丈夫なの?」 「少しだけなら大丈夫だ。すぐに済ませるから。」 カイルがそう言うとミーナは騎士達の所へ移動した。 再びPDOの方へ目線を変えると影がカイルの剣を黒く変色させた。 「さあ、次でお前を一発で仕留めてやるよ。覚悟しろ。」 そう言ってカイルはPDOの近くまで歩み寄った。 「これでおわー」 その瞬間、カイルの視界が一瞬で暗くなった。 「なっ!なんだ…目の前が見えないぞ!」 カイルはいつの間にか真っ暗な空間に立っていて目の前にはPDOがいなかった。 「ここはいったい…どこだ!あの悪魔はどこ行った!」 いくら叫んでも自分の声が返ってくるだけだった。 この謎の空間を作ったのはPDOだった。 この空間は外から見ると黒い球体の形をしていて、カイルはそこに閉じ込められていたのだ。 カイルを閉じ込めたPDOはニヤリと笑い、ミーナと騎士達がいる方向を向いた。 「ふふふ…俺が人間ごときにやられるわけねーだろ?これでお前らは確実に死ぬ。」 PDOはさっきよりも魔力を上げるとあたり一面に衝撃が発生し、ヒビの入った周りの建物が更に崩れていった。 「なんて魔力だ!…それよりも団長だ!団長をどうやって閉じ込めたんだ!」 さっきまで優勢だったカイルがあっけなく閉じ込められたのには理由があった。 その理由はとても単純だった。 「簡単な事だ。真っ暗闇で影が出せると思うか?常識的に考えたら一発でわかるだろ?馬鹿め。こいつは影に頼りすぎたようだな。」 するとPDOはカイルが入った黒い球体を空中に浮かばせた。 そして黒い球体の周りから黒雲が発生し、黒い球体を輪っか状に囲んだ。 「消えろ!イカズチと共に!」 そして黒雲から青白い雷が発生し、黒い球体を襲った。 球体の中にいるカイルはその雷によって悲鳴をあげていた。 「ガァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」 「あははは!!この球体に魔法を与える事で中にいるこいつはその魔法を食らう事になるんだよ!」 「だ、団長!!!!…おのれ!許さないぞ!!」 騎士達はPDOの雷魔法を止めようとPDOに斬りかかるがPDOは軽く息を吹きかけただけで竜巻が起こり、騎士達は飛ばされていく。 「おいおい、いーのかよ?こいつあと5分もすれば死んでしまうぞ?…っいて!」 後ろから石をぶつけられたPDO。 その投げた人物はミーナだった。 「おい、お嬢ちゃん。死にたいのか?」 顔は笑っているが目は本気で殺す気でいるPDO。 しかし、そんな目に対してミーナは言った。 「あなた達って、どうして人間をこうまでして苦しめるの?」 「は?」 「あなた達悪魔は、どうして罪のない人たちをここまでして苦しめるのかって聞いてるのよ!」 そしてそれと同時に持っていた石をPDOに投げた。 しかし、その投げた瞬間にミーナの目の前に移動し腕を振り上げたところで止めた。 「そんなもん…人間を殺して食う!人間は俺たちからすれば食料に過ぎないからだ!だからてめえも俺ら悪魔に食い殺されろ!!」 そして腕を振り下ろそうとした。 しかし、その瞬間。ミーナの体の周りから強烈な光が発生した。 その光で一瞬目がくらんだPDO。振り下ろそうとした手で目を押さえた。 「なんだ…今の光は?」 PDOは光が消えてもミーナに変化は見られず、不思議に思った。 何が起こったかも気づいていないミーナは構わずに口を開いた。 「あなた達悪魔のせいで…親友だった人、親だった人、学校の仲間、みんなそれぞれの関係があってそれぞれ楽しい生活があるのよ!そんな大切な存在を壊すあなた達を、私は許さない!」 ミーナが言い終えると悪魔は顔に血管を浮かばせながらミーナに歩み寄り。 「はぁ?大切な存在だと?俺たち悪魔はなぁ、その大切な存在をぶっ壊すだけで最高に欲求が満たされるんだよ!何が楽しい生活だ!人間は俺たちの腹を満たせればそれで良いんだよ!」 そして再び腕を振り上げると、ミーナの顔にめがけて一気に振り下ろそうとした。 ゴキッ… その場に一瞬鈍い音が鳴った。 それはミーナから聞こえた音ではなく、PDOから聞こえた音だった。 「グァァァァアアア!!!!腕ガァァァァ!!」 PDOはどういう訳か、腕が逆方向に捻れた状態になっていた。 「グァ…ァァ…貴様!一体何をした!」 「何もしてないわ!自分で腕をそこまで持ってったんでしょ?」 「違う!確かに当たった…当たったはずだ!」 PDOが言うように腕は確かにミーナに当たっていたのだ。 しかし、2人とも気づいていなかったがこの時にすでにある出来事が起こっていた。 それは無意識に発動したミーナのバリヤーの様なものがPDOの腕に当たった途端反射し、その反射の威力が強すぎた為腕が後ろ向きに360°捻れてしまったのだった。 「まさか、この女が魔法を使えるとは…だが、これは何の魔法だ…衝撃系の魔法では俺の腕をここまでは…」 「それは、こいつの中に眠ってる魔力が特別だからだ。」 すると突然何処からか声が聞こえてきた。 「だ、誰だ!今の声はー」 その瞬間、捻れた腕が地面に落ちた。 あまりの速さに痛みがなかったPDO。しかし、次の瞬間強烈な痛みが襲った。 「ぐっ…グァァァァアアア!!!!」 「え、何!?何が起こってるのよ!」 ミーナも何が起こったのか分からず、混乱していたが次の瞬間ハッと気づいた。 「もしかして…この感じは…。」 PDOの背後に空間の裂け目が発生し、その中から黒いローブを身に纏った赤髪の男が現れた。 「グレン!!」 「何っ!まさか紅の悪魔祓いか!」 PDOは思い出した。こいつが今回の目的である事を。 「随分と派手に暴れてたみたいだな。悪魔…いや、悪魔の実験体。PDO(プロジェクト・デビル・オペレーター)」 「プロジェクト・おぺれーた?」 「なぜ俺の事を…」 その瞬間、PDOの体が一瞬で切り刻まれそしてカイルが閉じ込められている黒い球体まで破壊された。 「ばっ、馬鹿な!たった一瞬で…」 「お前、隙だらけだな。こんなのが本当に悪魔が改造したやつなのか?おい、ミーナ。あの黒い球体に入ってた男を助け出せ。こいつは俺がやる!」 そう言ってグレンは黒い炎を体に纏った。 「黒い…炎だと?」 「そうだ。これはお前らを狩る為の炎だ。」 そう言ってグレンは拳に炎を纏い、PDOの顔面に拳を入れた。 拳が顔に衝突すると小さな魔法陣が魔法陣が発動し、炎の威力が上がるとPDOは勢い良く燃えながら吹っ飛んだ。 「アアアア!!!あぢい!あぢいよぉ!!」 暑さと痛さでのたうちまわるPDO。そんな事は御構い無しにグレンは魔法を唱えた。 「地獄に燃える黒炎、燃やし尽くせ!」 そう唱えるとPDOの体に燃えている黒炎が更に炎圧を増し、勢い良く燃えた。 「グァァァァアアア!!!…これが、悪魔殺しの炎か…なるほど、この炎のせいで他の悪魔どもはやられるのか。」 するとPDOは魔法で体に燃えてる黒炎を体内に取り込んだ。 「なんだ…俺の炎を取り込みやがった!」 「はぁ、はぁ、…俺を誰だと思ってる。改造悪魔のPDO、ベガ様だ!今の炎を取り込んだことで俺の体は炎に耐性ができた。お前の炎はもはや何の役にも…」 シュシュンッーーーッ 光の速さでベガを切り刻み、切り刻んだあとグレンは回し蹴りでベガを吹っ飛ばした。 「がはぁっ!馬鹿な!今のは炎じゃ…」 「今のは光属性の最上級魔法だ。そしてこれが雷の最上級だ!」 するとグレンの指先から一筋の雷がベガの体を貫通させた。 「そんな…馬鹿な…人間が複数の属性を…」 そしてそのまま、ベガの息が絶えた。 「意外とあっけなかったな…PDO。注意する必要は無かったみたいだな、リフェル。」 グレンはリフェルと呼ぶと、体の中にいる悪魔がそれに返事した。 (いや、どうだかね。まだ油断は出来ねえぞ。) その声に気付いたミーナがリフェルに声をかけた。 「え?今の声はもしかしてこの前の…」 (よぉ、久しぶりだな。) グレンはリフェルとミーナが会話をしている事に驚いたのか自分の胸に向かって言った。 「おい、お前まさかあいつと対話したのか?」 (ああ?別にいーだろが。どっちにしろこいつとは一緒に旅する仲間じゃねーか?) 「どの口が言ってやがる。人間を玩具とか言ってる奴がそんな事思うわけないだろ。」 (あっ、バレたか。あはははは!!) まるで独り言の様に見えるが明らかにグレンとは違う存在と喋っているとミーナは分かっている。 しかし、この光景を初めて見る者は不思議でしかなかった。 さっきまで気絶していたカイルは場の状況を理解しようとしていた。 「これは…あの悪魔がやられている?…ん?…あの子の目の前にいるのはもしかして噂の…だが、何を独りで言ってるんだ?」 グレンの中にいる悪魔に気づいていないカイルは不思議そうに見るしかなかった。 カイルが目を覚ました事に気付いたミーナはカイルに声をかけた。 「あ、カイル君目を覚ましたみたいだね。」 「あいつが、騎士団の団長。イフリークの守護神か。」 グレンはカイルを見た瞬間、そいつが団長だという事を直感だけで判断した。 「そういう君は12騎士長が言ってた紅の悪魔祓いか。見る限りかなり出来そうだね。」 そう言ってカイルは両手に持っている剣を握りしめた。 「前からちょっと君の力を試したかったんだぁ…いいよね?」 「えぇ!?急に戦うの!それは流石にちょっとやめたほうが…」 カイルは戦う気満々の目でグレンを見つめ、それを止めようとするミーナ。 しかし、グレンはそれに対して。 「それは、俺に対して喧嘩をふっかけてると受け取っていいのか?」 「どう捉えても構わないです。ただ、悪魔祓いと呼ばれる君の実力を知りたいだけですよ。」 「…いいだろう。お前のその自信は魔力で大体分かる。受けて立とー」 承諾した瞬間、2人の剣が衝突し金属音が辺りに響き渡った。 その金属音と同時に2人の魔力がぶつかる事で爆風が発生した。他国への軍事侵攻と併合を繰り返すことで領土を拡大している巨大な大国。ここは北の大国ウンディーネ。魔力資源と軍事拡張を国家存続の核とする極端な軍事国家であり、その統治思想は「戦果こそが存在価値」という歪んだ成果主義で統一されている。戦争で功績を挙げた者は地位・富・名誉を得る権利が与えられ、失敗者や非戦闘員には価値がほぼ与えられない。戦争で功績を挙げられなくとも、国家の軍事力拡大に繋がる軍資金を納めれば国から認められる。この仕組みを国民達に徹底させる為、この国では目に見える形で国民を上級、中級、下級という風に位置付け差別化した。どういう事か?その位置付けは国民の居住地域で分けられた。上級は名前の通り、貴族や戦争功労者など富裕層を指す。中級の国民は主に庶民の人達であるが、この者達は努力次第では軍に入隊し功績を上げる事で上級へと位を上げる事が出来る。そして下級は名前の通り、国の中でも最下層の人間の事を指す。大抵の下級国民が暮らす場所は政府の目に届かない場所に位置している為、治安が悪く劣悪な環境。ここには国に対する反逆行為を行った者、犯罪を行った者、北の大国の軍事侵攻により領土を奪われたその土地の人達が住んでいた。以前ライクとニケル、グロードが北の大国に訪れた際に出会った孤児の兄弟も下級国民であった。(第24話参照)下級国民は全てにおいて最底辺であり、人権というものは殆ど存在しない。これは領土を奪った他国の人間が自国に対して反撃しない為の抑止力にもなるが、それだけでは無い。先程説明した様に中級国民も犯罪や反逆行為を行う事で下級国民に成り下がる可能性があり、国民はそれを恐れていた。ーーこんな底辺の人間にはなりたく無い。こうして劣悪な環境の中で過ごす最底辺に自分もなる可能性がある事を知らしめる。それにより、国民全員に危機感を持たせながら国の為に必死で働かせられるのだ。また、人間とは自分より下を見て優越感に浸る生き物。自分達よりも底辺の人間が居る事により優越感に浸らせれば、国民のストレスの捌け口は自然と下級国民へと移る。この「働き蟻の法則」にも似た様な差別化の仕組みが、北の大国という巨大な軍事国家を成り立たせていた。「軍事の為に働かざる者、人としての権利を得るべからず。」北の大国にはその様な言葉が昔からあった。この国民の差別化。一見
魔導戦艦。それは北の大国が保有する、空中を駆ける全長200m、全幅80m、全高75mを誇る巨大飛行戦艦である。戦艦の全方位には大量の巨大な大砲が敷き詰められてある。それら全て、[魔導砲・アステリア]と呼ばれる以前グレンが魔導兵器であるレイクと戦った時に使用されていた大砲が搭載されている。(第36話参照)軍事大国である北の大国ウンディーネ軍の技術開発局が開発したこの戦艦。実は東の大国ノームにとって因縁のある存在であった。「魔導戦艦。我ら東の大国の技術を盗んでそれを軍事転用した巨大飛行戦艦か。」バンジョウの言う通り、この魔導戦艦は約100年前に東の大国が開発した魔力式四輪駆動車の技術を改良されて作られた。100年前、東の大国ノームにやってきた北の大国ウンディーネ出身の亡命者が居た。ウンディーネは諸国周辺の国に戦争を仕掛けては勝利して自国の領土を拡大していく軍事国家であり、戦争は絶対正義であるかの様に指導される。戦争、又は軍事に反対的な意見を持つ人間は処罰の対象となる為、それが嫌で亡命する北の大国の人間は当時珍しく無かった。ノームはそのウンディーネからやってきた亡命者に仕事を与え、彼は元々軍の整備士の仕事をしていた為、機械的な物を作る仕事を与えた。しかし、これは大きな間違いに繋がるのであった。数年後、その亡命者は突如ノームから居なくなり、その数年後にウンディーネ軍がノームに対して戦争を仕掛けてきた。当時ウンディーネの魔導戦艦が、ノームで作られていた魔力式四輪駆動車と全く同じ技術を使用して作られていた為、それに気付いたノームの国民は怒った。ーー亡命してきたあの男は、我々の技術を盗む為のウンディーネ軍が遣わせたスパイだったのだと。そして100年前、この事がきっかけで北と東の大国は規模は小さいが戦争に発展しており、戦争が終結してからその後4大国間同士で不可侵条約は結ばれているが未だ北と東の関係性は悪いままである。(第16話参照)今までは嫌がらせの様な北の大国のミサイルを東の大国近辺に放っていたが、今回の様な魔導戦艦で領空に入ってきた事は一度も無かった。明らかな領空侵犯(りょうくうしんぱん)であり、東の大国ノームに対する威圧行為だ。到底許される事では無い。「このままでは国民が危険だ!一刻も早く迎え撃つ準備を!」ギンジは八握剣(やつかのつるぎ)
カイルの影の斬撃によって舞い上がった黒い魔力が引いていく。「…ミーナちゃん!大丈夫か?」幾ら本気の勝負だとしても、あれだけの攻撃をまともに喰らえばただでは済まない。心配になったカイルはすぐに影の円展開を解除し、ミーナの方に駆け付けた。しかし、ミーナは何事も無く立っていた。「…あれ?私、確かにカイル君の攻撃を喰らった筈だけど?」傷一つ付いていないミーナは自分自身でも何が起きたのか分かっていない表情をしていた。するとバンジョウが終了の合図と一緒にその理由を説明した。「勝負あり!カイル殿の勝ち!…2人とも、中々凄い戦いだった。」「この道場は今日だけ特別な"結界"を張ってるんだ。安全にテストが出来るように、[この中では如何なる理由があっても他者を殺す事が出来ない]という条件を付け加えて。」「結界?」初めて聞く用語に首を傾げるミーナ。するとグロードがバンジョウに聞いた。「結界術を扱えるのですか?」結界術。それは魔法とは違い、魔力では無く条件を成立させる事により一定範囲の空間に結界を張る術である。「ええ。まあ我は簡単な結界術しか扱えないですけど。条件が厳しくなるとそれだけ術者に掛かるリスクも高くなるから。」リスク。それを聞いてグロードは少し疑問に思った。もしかすると、ベリエルが使った呪いというのはこの結界術がベースなのかと。しかし確証がない為、思っていても皆んなには言わなかった。「では、気を取り直して。今度は…」バンジョウは他の人のテストを行う為に仕切り直そうとするが、その時であった。バンジョウの腕に付けていた腕時計から大きな音が鳴り始める。ピリリリリリリリ!!!あまりにもうるさい音にびっくりするカイル達であるが、八握剣(やつかのつるぎ)のメンバーだけは全員緊張感のある顔になっていた。何故ならこの音は彼らにとっての緊急事態を意味するからだ。バンジョウは腕時計に付いてるボタンを押してその音を止めると、腕時計のレンズから人の姿が現れる。「こちらスイゲツ!た、大変です!バンジョウさん!」ホログラムで映し出された人物は今日はこの場に来ていなかったスイゲツであった。声の感じからして物凄く慌てているのが分かる。「どうしたんだ、スイゲツ?何故緊急連絡用の通信に繋いだ?」バンジョウとその他の八握剣(やつかのつるぎ)のメンバーは、慌て
エミルとフィナが道場に到着した午前8時頃。実はグロードも既に道場に到着していたのだ。それは丁度ネルが作った修行空間からカイル達が戻ってきた後、ボロボロの姿になったカイルを見てエミルがネルにキレていた時だった。「お前ぇ!!…カイルに、何をした!!」怒鳴り声は外までよく聞こえてきた為、到着したグロードは止めようと思ったのだが、カイルがエミルを制止した。カイルは事の顛末を後から来たエミルとフィナに説明した。「(成程。ネルはカイル君達に修行を付けてただけなのか。)」外で聞いていたグロードはカイルの説明を聞いて状況を理解した。「(……さて。どのタイミングで入ろうか。)」カイルの説明を聞いていたせいで、道場に入るタイミングを完全に逃してしまう。グロードは取り敢えず気にせずに入ろうと思ったのだが。「何であいつの事そんな簡単に信用するの!?あいつがフィナさんの国でどんな事したのか、カイルは知ってるんでしょ?」再びエミルの声が聞こえてきた為、またまたタイミングを逃してしまう。カイルとエミルはしょっちゅう喧嘩はしてるものの、それは痴話喧嘩に近い感じだ。しかし、今回は違う。エミルは泣きながらカイルに訴えかけていた。そして口論はヒートアップし、捲し立てるエミルに対してカイルが言った。「エミルだってネルの事何も知らないだろ!!」カイルの声にエミルは喋るのをピタリと止めた。そしてカイルは続けて言った。「確かにネルはシルフを壊滅寸前まで追い込んだ。殺した人も星の数だろう。到底世間にも、フィナさんやライクとニケルにも許されないと思う。」「でも、それはエミルも一緒だっただろ?現に元盗賊だったせいでイフリークの騎士団には最初認めてもらえなかった。盗賊なんて、世間から見れば悪人なんだからな。」「な!…違う!私は…」カイルの発言に動揺するエミルだが、ヒートアップしたカイルは喋るのを止めない。「違わない!エミルは自分がされた事と同じ事をネルに言ってるんだ!エミルだけじゃ無い!この場に居る全員、立場が変われば被害者と加害者なんだよ!」「だから皆んな。どっちかがずっと被害者面ばかりするなよ。俺達が偉そうにネルだけを非難する資格なんて、無いんだよ。」カイルの言葉によって道場の中の空気が一気に変わったのがグロードにも分かった。「(カイル君…それは正しい事だが、今
「……だから、俺が強くなる為にネルは修行を手伝ってくれただけなんだ。今回、あいつは何も悪く無い。寧ろ感謝してるくらいなんだ。」カイルはネルの事を誤解しているエミルに今までの経緯を話した。ーーだからこんなにもボロボロだったのか。信用していない相手が自分の好きな人をこんなボロボロの状態にされてエミルが黙ってる筈が無い。けれど、今理由を知った事で誤解が解かれたエミルは落ち着きを取り戻……。してはいなかった。それを聞いたエミルは仰向けで倒れているカイルの方を見ながらボロボロと涙がカイルの顔に滴っていた。そして。「何であいつの事そんな簡単に信用するの!?あいつがフィナさんの国でどんな事したのか、カイルは知ってるんでしょ?」エミルは怒りながらカイルに言うも、その言葉にはどこか心配も含まれている様に感じられる。「ああ。勿論知ってる。けど、昨日ミーナちゃんも言ってた様にあいつにはもう悪意が無い。修行も純粋に俺達を強くする為に手伝ってくれてた。」「そのお陰で俺は昨日よりも確実に強くなれた。」カイルの返答に対し、エミルは負けずに大きな声で捲し立てた。「昨日たった1日しかあいつの事見てないんでしょ!?きっと今はこうやって良いところだけを見せてるだけ!その後から裏切る事だってある筈よ!」「人はそう簡単に変わらない!変われないのよ、悪人は特にね!そんな奴がちょっと良い事しただけなのに、皆んな簡単に騙され過ぎなのよ!」「エミルだってネルの事何も知らないだろ!!」カイルは捲し立てるエミルに負けないくらいの大声で一喝するとエミルは喋るのをピタリと止めた。そしてカイルは続けて言った。「確かにネルはシルフを壊滅寸前まで追い込んだ。殺した人も星の数だろう。到底世間にも、フィナさんやライクとニケルにも許されないと思う。」「でも、それはエミルも一緒だっただろ?現に元盗賊だったせいでイフリークの騎士団には最初認めてもらえなかった。盗賊なんて、世間から見れば悪人なんだからな。」「な!…違う!私は…」カイルの発言に動揺するエミルだが、ヒートアップしたカイルは喋るのを止めない。「違わない!エミルは自分がされた事と同じ事をネルに言ってるんだ!エミルだけじゃ無い!この場に居る全員、立場が変われば被害者と加害者なんだよ!」「だから皆んな。どっちかがずっと被害者面ばかりするな
[ライクとニケル]サイド。目の前の悪魔達に対し、2人共雷神と風神の姿へと変貌した。「一気に潰してやるよ!」「魔力操作"極(ぎょく)"!火雷(ほのいかづち)!」ライクの背中の上から2番目の鼓が光ると右手から高電圧の雷が溜め込まれる。今までの火雷はそのまま一瞬で放たれるも、魔力操作"極(ぎょく)"により溜め込み時間が普段より10秒くらい掛かる。溜め込まれた右手の雷を悪魔達に向けて一筋の矢の様にして一直線に放たれる。ドカァァァン!!!炎を帯びた雷の大爆発は魔力操作"極(ぎょく)"により、普段よりも10倍以上の威力を発揮した。その威力により、1回の爆発で100体以上の悪魔が一気に消滅した。「っしゃあ!やりぃ!」魔力操作"極(ぎょく)"が上手くいき、調子付くライク。ーーこのままやってけば、あっという間に。しかし、そんな希望は一瞬で崩れ去る。ライクの雷で消滅した側から、再び後ろの方から悪魔が再生していった。「いぃっ!?何だ!?何でまた再生したんだ!?」「…成程。どうやらこの修行、悪魔達を全員殺すのが目的じゃないみたい。」「どう言う事だ、ニケル?」「つまり、この永遠に湧き出てくる悪魔を3日間、休みなく戦い続けなければいけないって事だ。」そう。ニケルが言った通り、2人の修行はこの悪魔達を全員倒す事が目的ではない。絶え間なく湧き出てくる悪魔達を魔力操作"極(ぎょく)"を使って戦い続ける為の持久性を鍛える事が目的であった。「だからライク。そんな大技を放ったところで意味は無い。ここからはペース配分を考えて戦わなければいけない。」「成程な。効率良く戦えって事か?」「それだけじゃ無い。こいつらは魔力操作"極(ぎょく)"でしか倒せない。だからもっと成功率も上げないと。」2人は雷神と風神の力による効果で更なる力を得たのだが、持続性が無いのが欠点である。そしてもう一つ。これはライクとニケル自身の問題。2人は雷神と風神の力を過信し、いつしかそれに頼る戦いが定着しつつあった。この修行では2人のその定着した悪癖を直すのに打って付けであったが、それは只直すと言うにはあまりにも過酷な修行であった。ライクとニケルはまだ完成したばかりの魔力操作"極(ぎょく)"はまだ不安定であり、失敗する事の方が多い。その上、魔力を溜める時間に10秒必要というのも、実戦
時は少しさかのぼり、現在ミーナとハンジはグレンの部屋に向かおうとしていた。 「グレンの部屋は確か…こっちです!」 ミーナはハンジをグレンの部屋へと誘導していく。 そして、グレンの部屋の前まで着いた。 「グレン、大変だよ!カイル君が盗賊に…って、あれ?」 部屋を開けるがどこにもグレンの姿が見当たらなかった。 「…いないみたいね。」 「本当に、グレンは…」 こんな時でも勝手な事をするグレンに呆れるミーナ。 「どこ行ったのでしょうか?」 「分からないです…でも、あまり自分から動かないグレンが自分から動くって事は何かあるって事だと思いますよ。…何か、嫌な事が起こ
あれから数日後、助かったイフリークの国民達は他国の騎士団に救助されることになった。 絶望、それは誰しもがそう感じているだろう。 つい数日前まで、人と魔法で賑わっていたイフリークは見る影もなかった。 救助に来た他国の騎士団はイフリークの国民達を自分たちの国である南の大国 シルフに連れて行く事になり、カイル達も含めた騎士団や国民達は用意された100台以上ある馬車に乗せられた。 そこにはどういう訳かグレン達も乗る事になり、当然カイルはグレンに睨みを効かせる。 「おい…なんでお前がここに乗ってんだ?」 するとそれに対して軽く受け答えするグレン。 「俺たちは次に目指すところは
そして現在、俺はこの国の危機を守らなければならない!そのために俺が…俺が…!! 「うわぁぁぁぁぁあ!!!!」 カイルが思いっきり剣を振ると黒い根っこは根元から一気に切り落とされ、切られた部分が霧散していった。 多少時間を稼げるが再生を続けるこの黒い根っこは10秒もあれば元どおりの状態に戻れた。 「このままじゃ…このままじゃ…」 諦めるな!カイル! エミルの声が頭の中で蘇った。 「そうだな、よし!俺も本気出さないとな。」 するとカイルの剣が黒く変色し、瞳が黒から赤く変わった。 「一発で止めてやる!」 カイルは縦に思いっきり振ると根元まで一直線に切れていった
グレンの魔力が溜まるまであと2分をきったがカイルにしてみたらこの時間は非常に長く感じた。 腕の筋肉が痙攣しすぎて既に感覚が無くなっていた。 「あともう少しだけ持ち堪えろ、騎士団の団長。あと少しでこの悪夢を終わらせてやるよ。」 「たの…むっ!」 しかし、黒い根っこは時間が経つに連れて再生するスピードを上げてくる為どんどん追い込まれていくのだった。 だめだ…追いつかない! そう思った時、カイルの頭の中で声が聞こえた。 「あんたって、すぐ諦めるよね。なっさけないなー!」 その声は綺麗な声であるが口が悪く少し男勝りな感じがした。 そして頭の中でその声の主を連想させた







